傾斜地に身を投げ出す

多摩丘陵地帯の傾斜地に建つ築45年の戸建て住宅の改修計画である。既存建物は南東向きの傾斜地という敷地条件に対して、コンパクトで合理的な設計がされていた。 今回の改修においては、建物の外形や水回りの位置を大幅には変更せずに、既存建物が持っていた空間的魅力を最大化しながら、家族4人のための住空間と設計者自身のアトリエを併設するための整備を行う。

設計を始めるにあたり周囲を取り巻く環境を観察してみると、接道にあたる西側階段路地と東側隣地の地盤が家の床を介して地続きであるように感じた。中庭テラスに土が盛られ雑草が育っている状況がよりそれを感じさせたのかもしれない。一方で、既存時点では景色を取り込む静かな空気が流れていた。そこで、家族の住まい方を考えた時に地続きの状況を家に取り込み、より動的に外界とつながる風景を生むことで、生活空間としての可能性を広げることが出来るのではないかと考えた。 

境界面の編集

空間同士を仕切る境界の多くは間仕切り壁で室を区切り、それを開口と建具で繋げることで定義されている。この建物も改修前は同様の手法でプランが解かれ、各室それぞれで南面の景色や中庭テラスと一対一の関係を結んでいた。既存の室配置と形状は肯定しそのままにしつつ、空間の境界に手を加えることで繋がり方を編集し、ひいては家全体を再定義することを考えた。

既存建物が持つコの字の形式をより生かすために、リビング・ダイニング・廊下の間仕切り位置を変更し、玄関側に属していた廊下を居室側のものとすることで、視線、光、風が中庭を囲うかたちで回るようにした。次に、地上階ではアトリエの入口と中庭の出口を新設し、地下階ではアトリエへの動線を兼ねた吹抜けを追加することで、内部を経由して外から外へ貫通するような抜けを内外開口部の配置により整理した。

ここでの境界面の編集は、壁と開口だけに焦点を当てるのではなく、建具、家具、階段、素材、構造部材など、境界面に被さるエレメントを新旧の境やサイズの大小関係なく全て等価に扱い再構築している。内-外の抜けだけでなく、自律したモノが重なり合い、境界を越えた繋がりを持たせることで意識は自然と外へ向かい、結果として家全体が傾斜地に丸ごと飲み込まれたような空間へと変質していく。

今後住まい方やアトリエの使い方は子供たちの成長とともに変わっていく。それまで建物が歩んできた時間を止めることなく、骨格として外界に繋がりを持ったこの建築は、新しく獲得した境界面を手がかりに今後変化し続けていくことを期待している。

用途:住宅+アトリエ

敷地面積:138.71㎡

建築面積:66.60㎡

延床面積:108.89㎡

構造:木造+鉄筋コンクリート造

設計監理:tombow architects

家具設計:m+tombow

構造設計:oha

施工:山内工務店

家具製作:OKI FUNITURE &DESIGN

鉄製作:BabeRuthIronWorks

粉体塗装:SIRIUS

不動産:創造系不動産

写真:山内紀人