祖父から引き継いだ家を改修し、地域の豊かさを支える場所にしたいという思いから始まったプロジェクト。
下丸子の駅前商店街の端、住居エリアと商店エリアのちょうど境に位置する築56年の木造戸建をリノベーションし、1階をカフェ/シェアキッチン/コワーキングスペース/物販スペースが共存する複合施設、2階を住居にする計画。
もとは神社寺院の雑木林エリアで、駅前の整備が進むなか比較的緑豊かな状況が続いていた。しかし近年周辺の住宅がマンションに建て替わるにつれ私有の緑が少なくなってきている。そこでゆとりのある庭を地域の豊かさと捉え、内外において人と庭の関係を近づけるようなデザインを考えた。
内部空間においては、耐震補強を行い間仕切り壁を撤去することでひとつながりの空間にしながらも、既存の部屋割りに対応していた開口部を手掛かりに床レベルや座席の形式を変え多様な場所を作っている。
外部空間においては、内縁を解体したエントランス、カーポートと一部築山を撤去し整備した店舗用アプローチ、既存樹木や石に寄り添うカウンターやベンチなど、小さな変更の積み重ねで庭との距離を近づけつつ、住宅とは異なる場所に転換させている。
事業計画と並走しながらの設計だったため、テナント貸しとなることも想定し建物全体の質をどこで担保するかをまずは考えた。解体をベースにエントランス・庭・床レベルの設計を先行して行い、後から店舗の内装を考える手順でプロジェクトを進めた。その結果、木造家屋というビルディングタイプが解体され、建物の構造やマテリアルが庭と同質化し、街全体に溶け込んでいくような状態がより生まれたように感じている。