空間同士を仕切る境界の多くは間仕切り壁で室を区切り、それを開口と建具で繋げることで定義されている。この建物も改修前は同様の手法でプランが解かれ、各室それぞれで南面の景色や中庭テラスと一対一の関係を結んでいた。既存の室配置と形状は肯定しそのままにしつつ、空間の境界に手を加えることで繋がり方を編集し、ひいては家全体を再定義することを考えた。
既存建物が持つコの字の形式をより生かすために、リビング・ダイニング・廊下の間仕切り位置を変更し、玄関側に属していた廊下を居室側のものとすることで、視線、光、風が中庭を囲うかたちで回るようにした。次に、地上階ではアトリエの入口と中庭の出口を新設し、地下階ではアトリエへの動線を兼ねた吹抜けを追加することで、内部を経由して外から外へ貫通するような抜けを内外開口部の配置により整理した。
ここでの境界面の編集は、壁と開口だけに焦点を当てるのではなく、建具、家具、階段、素材、構造部材など、境界面に被さるエレメントを新旧の境やサイズの大小関係なく全て等価に扱い再構築している。内-外の抜けだけでなく、自律したモノが重なり合い、境界を越えた繋がりを持たせることで意識は自然と外へ向かい、結果として家全体が傾斜地に丸ごと飲み込まれたような空間へと変質していく。
今後住まい方やアトリエの使い方は子供たちの成長とともに変わっていく。それまで建物が歩んできた時間を止めることなく、骨格として外界に繋がりを持ったこの建築は、新しく獲得した境界面を手がかりに今後変化し続けていくことを期待している。